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日本のトリュフ
Posted on 3 October, 2024
日本でもトリュフが採れる?国内トリュフ事情の現在地を聞いてみた
ヨーロッパ産のイメージが強いトリュフですが、近年は世界各地でさまざまな種類のトリュフが見つかっています。20年以上トリュフをはじめとする地下生菌の研究をされている折原貴道さんに日本のトリュフについてお話を伺いました。
折原貴道さん
神奈川県立生命の星・地球博物館の主任学芸員で、日本地下生菌研究会の会長を務める
地下生菌の種類や多様性は、ヨーロッパよりもアジアの方が豊かである
ー 日本でもトリュフは採れますか?
日本でもトリュフは多く見つかっています。ヨーロッパ同様、トリュフは古くから日本に自生していましたが、1930年代に北海道で発見された白いトリュフ(ヨーロッパ産の白トリュフとは異なる種)が日本国内で自生するトリュフとして最初に記録されました。1970〜80年代には、いわゆる黒トリュフの一種も発見されていました。さらに日本でしか見つかっていない固有種も多く発見されており、黒いトリュフのイボセイヨウショウロ(学名:T. longispinosum)やアジアクロセイヨウショウロ(学名:T. himalayense)白い色をしたホンセイヨウショウロ(学名:T. japonicum)は香りもあることから食材としての可能性があるとして注目されています。
ここ10年くらいでトリュフに関する関心も高まり多くの種が発見され、DNA解析技術の進展も手伝って飛躍的に研究が進んでいます。また近年の研究で、アジアの地下生菌の種類や多様性は、ヨーロッパより圧倒的に豊かであることが分かりました。中国や台湾、タイなどのアジア諸国でもさまざまなトリュフが自生している報告が出ています。
日本国内では20〜30種ほどのトリュフが分布すると推定されており、そのうち正式に名前(学名)がついているトリュフは10種程度です。ただし、大きさが小さい、香りが弱いなど、食用として通用にはあまり向かないものも含まれます。
キチャセイヨウショウロ(学名:Tuber iryudaense)
神奈川県生命の星・地球博物館が位置する小田原市入生田で折原さんを含む研究チームが発見した固有種。見た目はイタリア産ビアンケットトリュフ(Tuber borchii)に似ているが、外皮にひげのような菌糸が付いていて断面からは粒状の胞子がはっきりと見えた。これは胞子の粒が0.1mm程度と一般的なトリュフの胞子(0.05mm程度)に比べ大きいからだそう。
松露とトリュフは別物
ー 日本でも古くからトリュフが食べられていたのでしょうか?
江戸時代にはショウロ(松露)を食べていたという記録が残されています。松露はトリュフと見た目は似ていますが、香りは弱く(熟すと臭みがでる)お吸い物に入れて歯ごたえや食感を楽しむ食べ方をしていました。日本ではトリュフの和名を「セイヨウショウロ」と呼ぶことから松露=トリュフと思われがちですが、生物分類において「門」が異なり(トリュフは子嚢菌門、松露は担子菌門)、例えるならばヒトとウニくらい異なる、まったくの別物なのです。ただし、狭義のトリュフに見た目が似た地下生菌の総称をトリュフと呼ぶ場合もあります。
トリュフは日本全国でとれている
ー トリュフはどこでとれていますか?
トリュフは日本全国に自生しており、多くの報告があがっています。中でも、イボセイヨウショウロやアジアクロセイヨウショウロは多く見つかっています。11月ごろに旬を迎えるこれらの黒トリュフは、成熟すると海苔の佃煮にも似た香りがします。ホンセイヨウショウロは京都など本州でみつかっており、ヨーロッパ産の白トリュフと比べると香りは弱いですが、一部同じ香り成分をもっていることが分かっています。
トリュフはナラ、シイ、カシ類などブナ科の樹木と共生し、人の手が入った造成地や撹乱地を好むことが多いです。またトリュフは比較的若い樹木に共生します。肥沃すぎる土地ではトリュフは育ちません。なぜなら樹木が成長しきった場合や土壌が肥沃な場合、樹木はトリュフからミネラル分を享受する必要がなくなり積極的に共生をしなくなるためです。自然界の絶妙なバランスで樹木とトリュフ菌の共生が叶ったとき、トリュフはできるのです。
日本のトリュフは無限の可能性、リテラシーをもって行動を
ー 日本地下生菌研究会についてお教えください
日本地下生菌研究会では、学術的な活動を通じて科学的根拠に基づいた正確な情報をプロアマ問わず共有し、社会に発信することで日本の地下生菌の裾野を広げていきたいと思っています。
近年の急速なトリュフへの関心は、採集数の増加が新種の発見や研究に役立つ一方で、トリュフ発見情報の出たエリアに大勢がつめかけ土地を荒らしたり、まだ成長しきれていないトリュフを採取しつくしたり、知識が十分でない個人がフリマアプリを使って本来の相場とはかけ離れた高額でトリュフを販売するなど、リテラシーを欠く行為も増えています。トリュフ文化が根付いているヨーロッパでは、トリュフの採集時期や方法など条例で定められていますが、世間のトリュフや地下生菌に関する知識・認識が浅い今の日本は無法地帯。
無限の可能性をひめている日本の地下生菌を守るためにも、トリュフに関するリテラシーを養う情報発信や活動が必要だと感じています。
▶︎ 日本地下生菌研究会(JATS)公式ホームページはこちら